認知症が相続対策に与える影響と事前の家族信託契約の効果
厚生労働省の平成25年データによれば、65歳以上の約28%が認知症又は認知症の疑いがあるとされています。今回は認知症が相続対策等に与える影響についてみていきたいと思います。
< 認知症の弊害 >
認知症により本人の判断能力が低下してしまうと、非常に多くの問題が生じます。例えば、認知症の方は自分自身で引っ越しの際の賃貸借契約の手続きを取ることもできず、必要なお金を用意するために定期預金から普通預金に振り替えたり、銀行からお金を引き出すことも原則的にできません。
また、生命保険契約や生前贈与、不動産の購入等といった相続対策を認知症と診断された後に考えようとしても、実際にできる相続対策は一切ありません。重要なことなので繰り返しますが、認知症と診断された後に相続対策の相談を税理士にしたとしても、そこからできることはほぼありません。
さらに、アパート等を経営されている方が認知症になった場合、売却・修繕・取り壊し等は原則としてできないため、アパート経営等にも悪影響を与えます。
< 成年後見制度の利点 >
認知症と診断された方が、生活のための資金の出し入れや必要な契約行為を行うために利用できる制度として、成年後見制度があります。平成12年4月1日にはじまりましたが、現在では約20万人以上の方がこの制度を利用しています。
この制度は、判断能力が低下してしまった人のために、親族や弁護士、司法書士などが、その本人に代わって財産管理や契約行為を行うことができる制度です。本人の代わりになってくれる人のことを後見人といい、判断能力の低下してしまった人のことを被後見人といいます。
後見制度には二つの種類があります。ご本人が元気なうちから、将来、自分が認知症になってしまった時のために、後見人を選んでおくことのできる任意後見制度というものと、既に判断能力が低下してしまったあとに、後見人を家庭裁判所が選ぶ、法定後見制度というものです。
いずれの制度を利用した場合でも、後見人が本人の代わりに、介護施設の入居手続きや銀行での入出金等の手続きを行うことが出来ます。
< 成年後見制度の限界 >
ただし、後見人は相続対策を行うことはできません。不動産売却に関しても基本的にはできないと考えられます。後見人は、被後見人の財産を守り、被後見人の利益を考える立場にあるため、財産を運用したり組み替えたりすることはできず、上記立場として合理的な理由がない限り家庭裁判所の許可がおりないからです。
< 認知症への備えは家族信託で >
認知症と診断された後の相続対策はなにもできることはありません。ですが、事前に家族信託によって財産管理を親族等に任せておけば、認知症となった後でも管理を任せていた財産は管理を任されている親族が対策することができます。また、生活に必要な資金の出し入れに関しても、管理を任されている親族が行うことが出来ます。家族信託は成年後見制度のいいところが利用でき、さらに財産を契約の範囲内で自由に管理・処分できるため、認知症への対策として非常に有効な使い方ができます。
執筆者:関口達也