非上場株式等についての贈与税の納税猶予(特例措置)

制度の概要

この制度は、非上場株式等を後継者へ贈与した場合に発生する贈与税について、その贈与の対象となった株式のすべてについて一定の要件のもと納税を猶予する制度です。
納税猶予の取消事由に該当しない限りは一般的に贈与者の死亡により贈与税の納税義務が免除され、これに伴い相続税として納付若しくは相続税の納税猶予の適用を受けることになります。
一般措置に比べて要件の緩和や範囲の拡充が図られていますが、2018年4月1日から2023年3月31日までの5年の間に特例承継計画を都道府県へ提出し、かつ、2018年1月1日から2027年12月31日の10年の間に行われる贈与に限り適用を受けることができます。

この制度を使うのに有効な方

・中小企業のオーナー若しくは後継者
・自社株式の評価額が1億円を超えているなど株価が高額となっている方
・税負担を考慮しながら事業承継を行いたい方

制度ができた背景

基本的には一般措置のページで解説したとおりです。ただ、一般措置の場合は納税猶予の対象となる株式の上限数が発行済株式総数の2/3であったり、贈与から5年後の従業員数が一定割合を下回ると納税猶予が取り消されるなど使い勝手の悪い面がありました。これを大きく緩和してより使いやすい制度として新たに制定されました。

適用を受けるための主な要件

(1)対象法人
・中小企業であること(医療法人や税理士法人などは対象外)
・風俗営業会社でないこと
・資産保有会社又は資産運用会社ではないこと

(2)贈与者 →相続では先代経営者
・会社の代表権を有していた者であること
・贈与時において会社の代表権を有していないこと
・贈与時において贈与者及び贈与者と特別の関係がある者が保有する株式の議決権数が発行済株式総数の50%超であり、かつ、後継者を除いたこれらの株主の中で贈与者が保有していた議決権数が最も多い(いわゆる筆頭株主である)こと

(3)後継者
・贈与時において会社の代表権を有していること
・贈与時において20歳以上であり、かつ、役員就任後3年以上経過していること
・後継者及び後継者と特別の関係がある者が保有する株式の議決権数が発行済株式総数の50%超となること
・(後継者が1人の場合):後継者の保有する株式の議決権数が、後継者と特別の関係がある者の中で最も多く保有することとなること
・(後継者が2人若しくは3人の場合):後継者の保有する株式の議決権数が総議決権数の10%以上であり、かつ、後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除く)の中で最も多く保有することとなること

手続き

(1)贈与の前後における期間
・2018年4月1日から2023年3月31日までの間に、今後の後継者等に関する事項を記載した「特例承継計画」を都道府県へ提出して確認を受けること。(ただし、2023年3月31日までの贈与については贈与後に提出することも認められます。)
・贈与を受けた年の翌年1月15日までに、都道府県から「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」の認定を受けること
・贈与税の申告期限までに、この制度の適用を受ける旨を記載した申告書及び一定の書類を税務署へ提出し、かつ、納税猶予の額及び利子税の額に応じた担保を税務署へ提供すること

(2)贈与税の申告期限から5年間
・納税猶予の要件を引き続き満たしているか確認するための「年次報告書」を都道府県に対して毎年提出
・納税猶予の制度を続けるための「継続届出書」を税務署へ毎年提出

(3)贈与税の申告期限から5年経過後
・納税猶予の制度を続けるための「継続届出書」を税務署へ3年ごとに提出

納税猶予が打ち切られる主なケース

・継続届出書を税務署へ提出しなかった場合
・後継者が非上場株式等を譲渡等した場合(贈与税の申告期限から5年以内に譲渡等した場合は猶予税額の全額が、5年経過後に譲渡等した場合はその譲渡等した部分に対応する猶予税額を納付することとなります。ただし、「猶予税額が免除される主なケース」へ記載の免除対象贈与を除く。)
・後継者が会社の代表権を有しないこととなった場合(贈与税の申告期限から5年間のみ)
・対象法人が風俗営業会社や資産保有会社等になった場合
・申告期限から5年間の平均従業員数が申請時の80%を下回ることとなった場合
→ただし、80%を下回った場合でも、認定経営革新等支援機関により「雇用確保要件を満たせない理由を記載した書類」を提出することで納税猶予の取消にはならないため実質的にはこの打ち切り要件は撤廃されています。

猶予税額が免除される主なケース

・贈与者が死亡した場合(相続税の対象へ移行)
・後継者が死亡した場合
・後継者が免除対象贈与(※)を行った場合
※免除対象贈与とは、この非上場株式等を次の後継者に贈与した場合に、その贈与においても非上場株式等の贈与税の納税猶予の適用を受けている場合における贈与(贈与税の申告期限から5年以内はやむを得ない理由がある場合の贈与に限る)をいいます。

一般措置と特例措置の主な相違点

項目 一般措置 特例措置
対象となる株式数 発行済株式総数の3分の2まで 全株
相続税の納税猶予の対象となる金額 上記の80% 100%
対象となる後継者 1人のみ 3人まで可能
雇用確保要件 贈与・相続後の5年間で平均8割の雇用維持が必要 実質的に撤廃
相続時精算課税の適用 推定相続人である後継者のみ適用可 推定相続人ではない第3者からの贈与でも適用可
特例承継計画の提出 なし 2018年4月1日から2023年3月31日までに提出が必要(5年間)
贈与・相続の時期 制限なし  2018年1月1日から2027年12月31日まで(10年間)

まとめ

特例措置について一般措置と比べた場合、納税猶予の対象となる株式が100%になるなど納税者にとって有利な措置となっています。また、雇用確保要件が実質上撤廃されているのも経営を行ううえでは大きな安心材料となっています。
いずれにしてもこの制度を活用するためには2023年3月31日までに事業承継に関する計画書を都道府県へ提出する必要がありますので、ここは間違いなくおさえておく必要がありますね。

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